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想いは、華。

まだ ツボミではあるけれど。

 

The Encounter

 

その日、仕事初日の昼食時。
一つ一つの部隊は、訓練の内容によって食事をとる時間がまちまちである。
大体は正午12時前後だが、変則的だ。
たいてい、実戦がないときはデーナが指揮するグループと、ダンが指揮するグループに分かれている。

どちらにしても、食事には絶対に1時間以上は取らない。
給仕する側にとっては、時間との勝負である。

午後にも訓練があるので、あまり重いものはよくないし、かといってしっかり栄養を取らないと、きつい訓練には耐えられない。
そのためこの基地の給仕係は、皆きちんと栄養学を学んだもの、調理師としての資格を持つものばかりだ。
意外と難しく、大変な仕事――だったりもする。

食事を取るのは、朝食時と同じ食堂になっている。
同じくバイキング形式だが、量や種類はもっと豊富で、給仕係が並ぶ兵士達の皿に直接盛り付ける。
あえていうなら、給仕係と兵士達が顔と顔を合わせ、言葉を交わすチャンスの時でもある。

いつもなら、兵士達は給仕係のおばさん達と軽口をたたいたり、逆に若い兵士はおばさん達にどやされたりしながら、配膳が行われる。

しかし今日は、今日からは……ちょっと事情が変わりそうな気配がしていた。

 

12時ちょうど。
ダンが指揮する部隊の訓練が終ったらしく、50人弱が一斉に食堂に入ってきた。
普段ならそのままパッとトレーを取って、列に並び、食事をよそっていく。
何気ない時間だ。

が……

「おい、早く進めよっ! 俺はあの子によそって貰うんだってば!!」
「うっせぇよ、お前、順番だろ」

兵士達がざわめいている。

「何にしますか? お肉かお魚がありますけど」
最初の兵士に対してリリアンが口を開くと、彼は一瞬呆けて
「あ、あ〜……に、肉を……おねがいします……」
何故か敬語になっていた。

「ほら、ほら! あんた達、若い女の子がいるからって呆けないの! さっさと先に進みなさい! ほら、あんたは肉にするの魚にするの?」
年長のサリがなかなか進まない兵士をどやした。
「え、俺、あの子にやってもらいたいんだけど……!」
「贅沢言うんじゃないの。誰によそって貰ったって同じでしょ、ほら!」
ベテランらしくサリがてきぱき事を進めると、渋々ながらも列が進んでいく。

「いやぁ〜……。こうなるとはな、予想しとったけど。上部もよく許したな」

一応、混乱しながらも配膳がほぼ終った頃、ダンがサリに話しかけた。
2人ともこのクレフ基地に長く働いており、気の知れた仲だ。

「なかなか成績は良かったらしいわよ。本人がどうしてもここに配属されたいって、希望したらしいの。気も利くし、すごくいい子よ」
「まぁ、なんだってこんな泥だらけのところに。まぁほら、ちょっと位こういうのがある方がええと思うよ。デーナのやっちゃは反対してたけど」
「あの子を呼び出して、荷物まとめて帰れって言ったらしいわよ」

ダンはそれを聞くと、一瞬驚いたような顔をして、吹き出した。
「ははは! やつらしいわ!!」
笑いながら、ダンはサリから離れてリリアンの側へ行った。

「はじめまして、リリアンちゃん、やろ」
「はい、はじめまして……何にします?」
「俺はいつでも魚なんや、覚えとって。ヘルシーやろ、腹にもたれんし」

その独特の方言が面白かったのか、リリアンは少し笑ってダンの皿に魚を出した。

「どうぞ」
「一応、知ってるだろうけど自己紹介しとくな、ダン・ファスや。一応指揮官なんや、ガラじゃないけどな。今ここにいる連中の、まぁ、保護者みたいなもんや」
「リリアン・カーヴィングです、今日付けで配属になりました」
「知っとる。リリアンちゃん、可愛い名前やけど長いな。リリちゃんって呼んでもええかな?」
「どうぞ、お好きなように」
そういうと、リリアンが微笑んだ。

――遠目でみても美人だが、目の前で微笑まれると、その可愛らしさが際立つ。ダンはそのリリアンの笑顔を見て、満足そうに微笑んだ。

「美人さんはいつでも大歓迎や。この泥だらけの連中に、ちょっと花を添えてやらんといかんしな」
「……ありがとうございます、でも、あの……」
リリアンが少し遠慮がちに口を開いた。
「もう1人の指揮官の方……には反対されたんです」
「あぁ、デーナか。あれはいいんや、気にせんといて。あいつは厳しいんは、誰に対しても同じやから」
「そうですか……?」
「ほんま、気にせんで。きちんとリリちゃんが仕事してくれる限りは、奴には反対する権利なんてないはずなんやから」

ダンがそう、断言するような口調で言うと、リリアンは安心したような顔をした。

「分かりました、一生懸命働きますね」
「その調子や! ほな、俺は食事したらすぐに次の訓練に行かないかんから、これでな。そろそろデーナん所も来るだろうから、頑張り」
「ありがとうございます、ちゃんとよく噛んで食べてくださいね」

ダンもそれを聞くと、笑いながら席について食事を始めた。
周りの隊員も気軽にダンに話しかけてくる。人懐こく、明るい彼は人気者のようだ。
どうにもダンが長くリリアンと話していたので、何を話していたのか聞きたがっているようだったが――。

 

そして、ダンの部隊の食事がほぼ終わりに近づいた頃。
遅れて、デーナの部隊が入ってきた。

「はぁ〜! 飯だ!」
「お、あいつらはもう食ってたんだな。あの子、もう働いてんのかな」

がやがやと兵士達が軽口を叩きながら入ってくる。
ダンの部隊と同じような騒動がまた起こり、そしてまたサリに嗾けられてなんとか列が進んだ。

最後の方になってやっと、デーナが視界に入った。
リリアンは何故かドキッと緊張した。

兵士達の列がほぼ途切れだした頃、デーナは配膳される場所に寄ってくる。
サリが彼に話しかけた。

「ご苦労様。どう、上手くいってる?」
「いつも通りですよ」
「はは、なんだか今日は皆ヘロヘロじゃない。かなり厳しくしたんじゃないの?」
「だから、いつも通りって……」
「いつも厳しいっていう意味でしょ。あぁ、デーナ、この子達新人の……ってもう知ってるでしょう。フィラちゃん、マリちゃん、それから若いのがリリアンちゃん。皆よく働いてくれてるわよ」

名前を呼ばれた三人がぺこりと頭を下げた。
デーナはサリのすぐ隣にいるリリアンは見ずに、少し奥の方にいる新人の二人に声をかけた。

「ご苦労。何か問題があったら何時でも言ってくれ」
「はい」
「はい、どうも」

そして一瞬だけリリアンに目を移すと、すぐにそらしてサリの方を見た。
――その行動は、まるで見たくないものを見てしまったというようなもので……
ふぅ、とサリが小さいため息をついた。

「反対することもあると思うけど、この子もちゃんと働いてくれてるわよ。助かってるわ」
「別に反対はしてないですよ」
「そう、ならいいけど」

それえでも、サリがリリアンの事を言った瞬間、デーナの表情が厳しくなったのは明らかだった。
そして、デーナはさっとサリから食事を受け取ると、すぐに机の方に向かった。

その後姿を見送りながら、サリがまた意味ありげにため息を付いた。
「本当はすごく優しい子なんだけどねぇ。まぁ、気にしないであげて」
「大丈夫です……」

リリアンはそう答えつつも、心の中は棘が刺さったような感覚だった。
(反対されてるのは分かってるけど……でも、他の2人には普通なのに……)
去っていくデーナの背中にも、何か拒絶の様なものを感じて、リリアンはうつむいた。

 

「よ! デーナ隊長!! 遅いお昼で」
「お前のところが早いんだよ」
「いや、実は急かされてな。早く食堂行って可愛い子ちゃんを拝みたいってな」
「…………」
「わかっとる、お前はこういうのは反対なんやろ? でもま、いいやろ。息抜きにもなるし、その方が精が出るってもんだ。見てみぃ、皆嬉しそうやないか」
「にやけてるだけだろう」
「……同じ事や」

デーナが食堂を見回すと、確かに兵士達の間に、いつもはない華やかさがあった。
悪いことではないのだろうが……

「それに、今日みたいに騒がれんのは最初のうちだけや」
「…………」
「観念しい。じゃ、俺らは行くな。お先に」
と言うと、ダンはリリアンの方にウィンクを見せた。

 

残されたデーナがため息をつくのは、離れた所にいるリリアンにも分かった。

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