25. A Letter: From Eva and Anatole to Vivian

 親愛なるヴィヴィアンへ

 最後にあなたを見てから、もう二ヶ月が経ちました。
 わたしにとって、こんなに長い間あなたが側にいないのは生まれて初めてのことです。どれだけわたしが寂しく、あなたを恋しく思っているか、想像がつくかしら?
 わたしとアナトールの小さな結婚式のあと、あなたが勉強のために家を出たいと言い出したときのことを、よく思い出します。
「ずっと挑戦してみたかったのよ」
 と、あなたは言いました。
 これまでずっと、愛と責任感からエリオット牧場を離れることはできなかったけれど、今はもう、アナトールがいるのだから大丈夫、と。
 ヴィヴィアン、わたしはあなたの勇気を尊敬します。
 そしてあなたの成功と幸せをいつも願っています。
 それでも、こうしてあなたが遠くに行ってしまったのが寂しくてなりません。それがたとえ、二年という、長い人生から見れば短い期限付きでも。
 あなたが筆無精なのは誰よりもよーく分かっているつもりですが、時々は近状を知らせてくださいね。わたしもアナトールも、あなたからの便りを心待ちにしています。
 ええ、アナトールもです。
 あなた達二人はいつも、顔を合わせる度に軽口を叩き合って文句を言っていたけれど、本当はお互いを尊敬しているのだと、よく分かっています。もちろん、こんなことはわたしの口から言う必要はありませんね。きっとあなたが一番知っていることでしょう。

 アナトールについて。
 なにから書き始めたらいいかしら? 彼はとても情熱的な恋人で、仕事に忠実な牧場主で、優しい夫です。
 あなたが心配していたように屋敷を壊したりもしていませんし、わたしを束縛しすぎるようなこともありません。確かに少し過保護なところがあるかもしれないけれど……それが夫というものではないかしら?
 妻を守らない夫よりは、ずっといいでしょう?
 わたしたちはよく笑い、二人で戯れたり、一緒にいる時間を楽しんで過ごしています。

 ただ彼は、今でも時々、夜中に悪夢で飛び起きることがあります。
 四年間の戦争の傷は、一朝一夕に消えたりするものではないのでしょう。きっとアナトール以外にも、同じように苦しんでいる人達がいるのだと思うと、悲しくてたまりません。
 汗だくになって真夜中のベッドで震えながら頭を抱える彼は、とても幼く見えて、わたしはいつも、時には朝が来るまで、ぎゅっと彼を抱きしめています。
 それでも徐々に、少しずつですが、悪夢の夜も減ってきているのが希望です。
 いつか安眠と幸せな夢が、彼の中の恐怖と傷を追い払ってしまう時がくると、信じています。

 真剣な話題はここまでにして、ヴィヴィアン、あなたの生活はどうですか?
 いつだったか、わたしとアナトールのような関係──あなたの言葉を借りれば、「恋の病」──は、あなたには関係ないと言っていましたが、どうか信じて。
 今はなにもないように見えても、曲がり角を曲がった先に突然、新しい愛が待っているかもしれませんから……。

 そして最後に。
 アナトールは屋敷を壊していませんが、次の夏、あなたが休暇で帰ってきてくれるころには、あなたの姪か甥が、居間を滅茶苦茶にしているかもしれません……。
 ええ、あなたはもう半年もしないうちに、伯母さんになります。
 誰がこんな日が来ると想像したかしら?

 ──愛と尊敬を込めて。エヴァ・エリオット・ワイズより。




 外はもう暗くなり、湯をすませたエヴァは寝着に着替えて、寝室の机の前に座っていた。
 書き終わった手紙を丁寧に畳み、蜜蝋で封をし終わってからすぐ、エヴァは背後にアナトールの気配を感じて顔を上げた。
 振り向くと、アナトールは寝室の扉の枠に片方の肩を寄せ、腕組みをしながらエヴァをじっと見つめていた。
「アナトール……いつからそこにいたの?」
 エヴァの問いに、アナトールはさぁ、というような仕草で肩をすくめてみせる。
「君がくすくす笑いながら、お腹に手を当てていた辺りから……かな」
 今度はエヴァが肩をすくめる番だった。
「ヴィヴィアンになら、教えてもいいでしょう?」
「君がそうしたいなら、俺は反対しないよ」
 そう言いながら、アナトールは静かな足取りでエヴァのすぐ後ろに付き、彼女を背中からぎゅっと抱きしめた。あの日から、このロマンチックな抱擁の仕方はアナトールのお気に入りらしかった。
 もちろん、エヴァにとっても。

 雨は止んだ。
 アナトールはこの土地で、愛のために尽くし、こうして毎晩エヴァを抱きしめている。

 愛は必要なだけ二人の前にあった。
 そして遠くない未来、アナトールはこの土地で父親になり、子供を育てることになる。願わくば、一人、二人、三人と、彼に似た沢山の子供達が、笑いながら草原を駆け抜けているといい。

「親愛なる、君へ」
 アナトールは、度重なる口づけのあいだに、エヴァの耳元にささやいた。
 そして続く愛の言葉のささやきに、エヴァは口元をほころばせ、彼の腕に身を任せた。そして夜が明けるまで、アナトールが妻を離すことはなかった。


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